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仙台地方裁判所 昭和61年(ヨ)12号 決定

申請人

菅野丈夫

右訴訟代理人弁護士

松沢陽明

被申請人

日本国有鉄道

右代表者総裁

杉浦喬也

右訴訟代理人弁護士

井関浩

右指定代理人

本間違三

右指定代理人

室伏仁

右同

西沢忠芳

右同

江龍貞雄

右同

天野安彦

右同

宮田英仁

右同

安岡昌龍

主文

本件申請は、いずれもこれを却下する。

申請費用は、申請人の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  申請人

1  申請人が被申請に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることを仮に定める。

2  被申請人は、申請人に対し、昭和六一年一月以降本案判決確定に至るまで、毎日二〇日限り、金一一万七三〇〇円を仮に支払え。

二  被申請人

主文同旨

第二当事者の主張

一  申請の理由

1  申請人は、昭和五七年四月一日郡山機関区構内整備係として被申請人に雇用され、同年一一月一日から車両検修係(現名称・運転検修係)として勤務していたものである。

2  申請人は、昭和六〇年一二月当時、被申請人から、一般四職一〇号俸という基本給金一一万七三〇〇円を毎月二〇日に支給を受けていた。

3  したがって、申請人は、被申請人の職員であって、被申請人に対し、昭和六一年一月分以降の給与の支払を求める権利を有する。

4  しかるに、被申請人は、申請人が被申請人の職員であることを争い、同月以降申請人を職員として処遇しない。

5  申請人は、被申請人からの給与によって生活をし、生活の本拠も鉄道寮であって、本件仮処分決定によりその地位の保全と給与の支払いを受けなければ、右寮から出される上、生活に困窮することが明らかであり、本案判決を待っていたのでは著しい損害を被る恐れがある。

二  申請の理由に対する答弁

申請の理由1、2、4の各事実は認める。同3の事実は否認する。同5の事実中、申請人の生活の本拠が被申請人の鉄道寮であることは否認するが、その余の事実は知らない。

三  抗弁

1  被申請人は、昭和六〇年一二月二四日、申請人につき、「昭和六〇年一〇月二〇日、一六時過ぎから一八時三五分頃にかけて、成田市三里塚上町二番地(三里塚第一公園)から同市三里塚四二番地(三里塚十字路)を経て、同二三七番地先に至る路上及びその付近において、多数の者が共謀の上、丸太(長さ約六メートル)数本、多数の火炎ビン、鉄パイプ、角材、竹竿、木刀、棍棒、石塊などの凶器を準備して集合し、警察部隊に対し、丸太を抱えて突入し、鉄パイプ、角材、竹竿などで突き、殴打した上、多数の火炎びん、石塊を投げつけるなどの行為を行った事件(以下、三里塚十字路事件という。)において、投石集団中にいて、一七時二六分頃、バリケードを撤去して投石集団を追ってきた機動隊員によって逮捕されたものであり、その行為は職員として著しく不都合であったことによる。」との事由を付して、申請人に対し懲戒処分を行なう旨の通知をしたが、同月二七日これにつき申請人から異議の申立がなされたので、同月二八日申請人に対し弁明・弁護の機会を与えた上、同月三〇日に、同月三一日付で日本国有鉄道法(以下、国鉄法という。)三一条、日本国有鉄道就業規則(以下、就業規則という。)一〇一条一六号、一七号に基づき、申請人を懲戒処分として免職する旨発令(以下、本件懲戒免職処分という。)した。

2  申請人が本件懲戒免職処分を受けるに至った経緯は、次のとおりである。

(一) いわゆる三里塚十字路事件について

(1) 成田空港の二期工事に反対する三里塚・芝山連合空港反対同盟北原鉱治事務局長派は、「二期工事阻止・不法収用法弾劾・成田用水実力阻止」などをスローガンに昭和六〇年一〇月二〇日前記三里塚第一公園で「全国総決起集会」を開いたが、これを支援する中核派などの過激派集団は、この集会を「今年最大の決戦」と位置づけ、同年夏ごろから「空港突入・占拠・解体」を目標にして、全国からの動員を呼びかけていた。したがって、右集会後において、これらの過激派は、成田空港を警備する警察官と衝突することを当然予想し、警備人を突破して空港を占拠する計画を立てていたのであり、集会後のデモに使うため、角材、鉄パイプ、火炎びん、投石用のコンクリート片等の凶器となるものを事前に準備していたのである。一方空港を警備する警察も多数の警察官を動員して防備体制を備えていた。

このような状況のもとにおいて、過激派集団のデモに参加すれば、警官との激しい衝突によって、違法行為を犯すことになることは、当然予測できることであった。事実、中核派などの過激派集団は、デモ終了後の午後四時すぎ約六メートルの丸太を数人で抱えた第一陣を先頭に、三里塚十字路で空港への侵入を防ぐため警備していた警察隊に突入し、警察官に鉄パイプで殴りかかり、火炎びんを投げつけ、二トンに達するコンクリート破片等を投げつけたのである。この結果五四名以上の警察官に重傷を負わせたのであって、まさに狂気による狂暴な行為といわざるを得ない。

(2) ところで、申請人は、当日の集会後のデモ隊が前述のような行動に出ることを予測しながら、これに参加したことは、申請人が前記集会に参加する前に、もし予定どおり帰宅しない場合には、第三者に申請人の勤務先である郡山機関区に年休届を出すように依頼している(なお、申請人が逮捕された翌日の一〇月二一日から連日にわたり、申請人の姉るり子及び氏名不詳の第三者から電話により年休の申込があった。)ことによっても明らかであり、実際にも過激派のデモ隊のなかで投石集団にいて兇器準備集合罪及び公務執行妨害罪等によって現行犯逮捕(ただし、その後起訴猶予処分)され、このことが新聞紙上等で社会に報道されたのである。かかる申請人の行為は、後述のように一般私企業に比べ、より一段と廉潔性が要請される被申請人の職員としては、その品位を傷つけ、信用を失うべき非行というべきであって、著しく不都合な行為というべきである。

(二) 申請人の逮捕後の状況について

(1) 申請人は、同年一〇月二〇日逮捕され、その後引き続き勾留され、翌一一月一一日釈放されたが、同年一〇月二一日申請人の姉るり子より風邪を理由とする申請人の年休の申込(当日は申請人の勤務は非休であった。)、翌二二日も前記るり子から年休の申込があったので、家族に問い合せたところ、申請人の所在は不明であるとのことであった。翌二三日及び同月二四日には氏名を名乗らない男性からの電話で申請人の年休の申込があり、また同月二六日にも同様の電話があったが、同日午後七時五〇分ごろ、申請人の姉るり子に電話した結果、申請人が大塚警察署に拘置されていることが判明し、同月二八日小島弁護士発送の郵便により申請人の休暇届が配達された。

(2) 申請人は、釈放された翌日の同年一一月一二日郡山機関区に出勤したが、坂本区長が所定の勤務を欠いた理由を尋ねたのに対し、「不利益なことを話さなくともよい。」といって、なにも答えず、始末書の提出を求めたが、これを拒否した。その後再三にわたり、始末書の提出を求めたが、応ぜず、同月一八日になって「顛末書」を提出したのみで、所定勤務を欠いたことについて反省しなかった。

(三) 申請人のこれまでの非違行為について

申請人は、平常の勤務においても、以下述べるように被申請人の規則に反することがしばしばあり、その業務に協力的でなかった。

(1) 昭和五九年四月一四日申請人は、東北鉄道学園普通課程第六一回特別機関車科(EL第一分科)に入学し、同年四月一三日修了予定であったが、学習態度が極めて悪かったため、異例の未修了処分となった(この研修は、申請人が希望していた福島機関区へ転出するためには不可決のものであった。)。

(2) 同年五月二八日申請人の勤務する郡山機関区の検修詰所の同人の机の上に「84国民春闘勝利・福島県労協青年部」と赤字に白く染め抜いたタオルをひろげ、また、同月三〇日同じ机の上に「団結・抵抗・統一・団結」と白地に赤く染め抜いた手拭をひろげており、いずれも注意されて撤去した。

(3) 昭和六〇年三月二二日、申請人は、勤務時間中である午後一時ごろ同機関区の総合庁舎三階に設置してある同区所有のワープロを使用し、動力車労働組合郡山支部検修分科の発行する「検修郡山」という組合の情報ビラを作成していたが、同機関区の坂本区長が注意しても、「手待ち時間である。なにをやってもいいだろう。」といって反抗したが、しぶしぶ退去した。

(4) 同月二八日午後二時ごろ、申請人は、勤務時間中であるのに、検修詰所の自席で前記組合の情報「検修郡山」三号を作成していて、管理者の注意を受けてやめた。

(5) 同年四月一日午後一一時ごろ、申請人は飲酒のうえ同機関区総合庁舎三階のワープロを使用して前記組合情報「検修郡山」を作成し、坂本区長に注意されても、「自分の時間でやってなんで悪い。」等と大声で騒いだ。

(6) また、同月一二日午後一時四五分ころ、申請人は、勤務時間中であるのに、同機関区DL記録室で組合情報「検修郡山」六号を作成しており、これを注意した坂本区長に対し、「でていけ、こんなところになにしにきた。仕事もしないで。」と暴言をはいた。

(7) 同年五月一日午後一〇時四五分ごろ、申請人は、飲酒のうえ、同機関区のDL仕業検査詰所に入りこみ上半身裸になり、これを注意した同機関区の橋本機関士に、「うるせえ、この野郎。」と大声をあげ、臨場した公安職員にようやく名前を告げた。その翌日午前七時五〇分ごろ身体の調子が悪いからといって年休を要求して休んだが、前夜の行動について始末書を提出した。

(8) 同月二四日午前、ディーゼル機関車のエンジンヘッドの分解作業中、同月三一日午前一〇時ごろディーゼル機関車の制輪子取替作業中、及び同年六月五日午前九時四〇分ごろ区名札作成中、いずれも同機関区の指示に反して安全帽(ヘルメット)を着用せず、注意されて着用した。

(9) 同年八月二一日ごろ、申請人は、前記組合情報「検修郡山」を作成し、「ヨッパライ区長は職場に入るな」と題し、「阪本区長は、ヨッパラってほとんど口もきけない(酒気を悟られまいと…)状態だったのです。」などと記載し、虚偽の事実を流布した。

(10) 同年九月五日午後二時二〇分ごろ、申請人は、構内作業見習中、首に赤タオルをだらしなく巻き、「合理化絶対反対」と赤ペンキで落書をしたヘルメットを着用しており、坂本区長が注意しても、「仕事のじゃまだ。区長は酒を飲んで来ていいのか。」と喰ってかかるように抗議して、そのまま作業を続けた。

申請人は、このほか昭和五八年二月から昭和六〇年二月までの二年間に感冒等を理由に二四日の病欠があり、勤務成績不良ということで同年四月の昇給期に通常は四号俸昇給のところ、三号俸しか昇給できず、また職群も昭和五九年一〇月期と昭和六〇年四月期に四職群から五職群に昇格できる機会があったが、昇給できなかった。

(四) 本件処分の正当性について

(1) 国鉄法第三一条第一項は、被申請人の職員が懲戒事由に該当した場合に懲戒権者である被申請人の総裁は、懲戒処分として、免職・停職・減給又は戒告の処分をすることができる旨を規定しているが、懲戒事由に当たる所為をした職員に対し、総裁が右の各処分のうちどの処分を選択すべきであるかについては、その具体的基準を定めた法律の規定はなく、また、被申請人の業務上の規程である就業規則にも具体的基準の定めはない。

ところで、懲戒権者がどの処分を選択するかを決定するに当っては、懲戒事由に該当すると認められる所為の外部に表われた態様のほか、右所為の原因・動機・状況・結果等を考慮すべきことはもちろん、さらに当該職員のその前後における態度・懲戒処分等の処分歴・社会的環境・選択する処分が他の職員及び社会に与える影響等諸般の事情を綜合考慮したうえで被申請人の企業秩序の維持・確保という見地から考えて相当と判断した処分を選択すべきであるが、どの処分を選択するのが相当であるかについての判断は、前述のようにかなり広い範囲の事情を綜合したうえでされるものであり、しかも前述のように、処分選択の具体的基準が定められていないことを考えると、右の判断については懲戒権者の裁量が認められているというべきである。したがって懲戒権者が裁量に基づいてした懲戒処分は、それが著しく合理性を欠き、社会常識上とうてい是認できない場合を除き、これが無効となることはないのである。

しかし、前述のように裁量に際し、考慮すべき事項は広範にわたるのみならず、これらの事項については、懲戒権者が平素から部内の事情について精通したうえ、職員の指導・監督をしているのであるから、懲戒処分が懲戒権の濫用にあたるかどうかを判断するにあたっては、裁判所は、当該懲戒処分が社会通念上是認できないほど合理性を欠くかどうかの観点からするべきであって、自ら懲戒権者と同一の立場に立って選択した処分と実際にされた処分とを比較して濫用の有無を決してはならないとされているのである(最高裁昭和五二年一二月二〇日判決民集三一巻七号一一〇一頁・最高裁同月同日判決同巻同号一二二五頁参照)。

(2) 被申請人は、従前国家がその行政機関を通じて直接に経営してきた国有鉄道事業を中心とする事業を引き継いで経営し、その能率的な運営によりこれを発展させ、もって公共の福祉を増進することを目的として設立された公法上の法人(国鉄法第一条)で、その資本金は全額政府の出資によるものであり、その事業の規模が全国的かつ広範囲にわたるものであって、それ自体「極めて高度の公共性を有する」ものであるが、このような「公共の利益と密接な関係を有する事業の運営を目的とする企業体においては、その事業の運営内容のみならず、更に広くその事業のあり方自体が社会的な批判の対象とされるのであって、その事業の円滑な運営の確保と並んで、その廉潔性の保持が社会から要請ないし期待されているのである。」から、このような社会からの評価に即応して、その企業体の職員に対しては、公務員と同様に「一般私企業の従業員と比較して、より広い、かつより厳しい規制がなされうる合理的な理由がある。」とされているのである(最高裁昭和四九年二月二八日判決民集二八巻一号六六頁参照)。

しかも、公知のように、被申請人は、多額の負債を出し、その再建は、国家的緊急課題となっているなかで、被申請人の職員に対する廉潔性の要請はより強まっているといわなければならない。

このような見地から本件懲戒免職処分をみると、前述の申請人の所為自体からみても、かかる職員を企業外に排除することはやむを得ない措置として社会的にも是認できることは明らかであるといわなければならないのみならず、さきに述べた申請人の平素の勤務成績や勤務態度に過去の非違行為の情状を勘案すると、本件懲戒免職処分は正当であるといわなければならない。

(3) ちなみに、いわゆる三里塚十字路事件に参加して逮捕された被申請人の職員は申請人を含む四名(うち一名は起訴・他の三名は、起訴猶予)であり、いずれも懲戒免職となり、また申請人が所属する動力車労働組合も本件処分に対しては静観している。さらに、右事件に参加して逮捕された地方公務員である教師(いずれも不起訴)についても、いずれも懲戒免職となっている。

(五) このような次第で、申請人に対する本件懲戒免職処分は、適法かつ妥当なものであるから、本件仮処分申請は、理由がなく、速やかに却下されるべきである。

四  抗弁に対する申請人の答弁

抗弁1の事実は認める。抗弁2の事実中、申請人が被申請人主張の日に、その主張のような罪名で現行犯逮捕され、その後起訴猶予処分になったことは認めるが、その余の事実は否認する。右の逮捕自体は、公安委員会の許可を得た集会デモに参加していた者を無差別的に逮捕した不当なものであるし、また、単に疑いをかけられたというに止まるものであって、独立の非違行為として処分の対象とはなり得ないものである。次に、被申請人は、申請人のこれまでの勤務態度が不良であると主張しているところ、申請人が被申請人主張のような態度をとっていたとしても、東北鉄道学園における問題は、同学園側のいわゆるマルセイ教育方針に申請人が従わなかったことによるものである。職場におけるワープロ使用も、右ワープロが職場の無事故に対する報償金で購入されたものであることから、これまで労組の使用が認められていたものであり、手待時間(待機時間)中は職員が読書等に利用することが認められているものであった。このように、申請人と被申請人の勤務態度に関する対立は単に個人的レベルの問題ではなく、国鉄の合理化をめぐる鋭い労使対立の問題に他ならない。しかも、こうした事情は、本件懲戒免職処分の事由とは切り離された情状に関するものに過ぎない。

理由

一  申請の理由1、2、4の事実は当事者間に争いがない。

二  そこで、抗弁について判断するに、抗弁1の事実及び同2の事実中、申請人が被申請人主張の日に、その主張のような罪名で現行犯逮捕され、その後起訴猶予処分になったことは当事者間に争いがなく、本件疎明資料によれば、その余の抗弁2の事実全部が一応認められ、他に右認定を覆すに足る疎明はない。

右の事実によると、申請人は、成田空港の二期工事等阻止を企図した過激派の集団行動に参加し、兇器準備集合及び公務執行妨害等の罪を犯したこと、申請人は、これにつき逮捕・勾留され、その後起訴猶予処分になったこと、被申請人は、申請人の右参加行為等が就業規則一〇一条一七号所定の「その他著しく不都合な行為のあった場合」に該当するものとして、申請人に対し、弁明・弁護の機会を与えた上、国鉄法三一条に基づき本件懲戒免職処分をしたこと、右集団行動に参加した申請人を除く被申請人の職員三名も、この件につきいずれも懲戒免職処分(なお、うち一名は起訴、うち二名は起訴猶予処分)を受けたことが明らかである。

そこで、本件懲戒免職処分の正当性につき判断するに、懲戒権者たる被申請人の総裁は、懲戒事由に当る行為をした職員に対し、国鉄法三一条一項所定の懲戒処分のうち、どの処分を選択するかを決定するに当っては、懲戒事由に該当すると認められる所為の外部に表われた態様のほか、その所為の原因、動機、状況、結果等を考慮すべきことはもちろん、さらに、当該職員のその前後における態度、懲戒処分等の処分歴、社会的環境、選択する処分が他の職員及び社会に与える影響等諸般の事情を総合考慮したうえで、被申請人の企業秩序の維持確保という見地から考えて相当と判断した処分を選択すべく、そして、右の判断については懲戒権者の裁量が認められているのであって、懲戒権者の処分選択が当該行為との対比において甚だしく均衡を失する等社会通念に照らして合理性を欠くものとして違法性を有しない限り、それは懲戒権者の裁量の範囲内にあるものとしてその効力を否定することはできない(最高裁昭和四九年二月二八日一小法廷判決)ものというべきである。

これを本件につきみるに、申請人の行為は、前記認定のとおりであって、その動機や目的が何であったにせよ、また、被申請人の職務外でなされた職務遂行に関係のないものであったとはいえ、反社会性の非常に高い集団的な過激行動であって、その法益侵害の結果も重大であったばかりでなく、社会に与えた影響も極めて大きく、衝撃的であったものといえる。また、本件前後における申請人の勤務態度は必ずしも良好なものであったとは認め難い。そして、右事情に加えて、被申請人のように、極めて高度の公共性を有する公法上の法人であって、公共の利益と密接な関係を有する事業の運営を目的とする企業体においては、その事業の運営内容だけではなく、さらに、広くその事業のあり方自体が社会的批判の対象とされるのであって、その事業の円滑な運営の確保と並んでその廉潔性の保持が社会から要請ないし期待されている(前掲判決参照)こと等諸般の事情を総合して考えると、申請人には本件以前に格段の処分を受けた前歴はないこと、本件により被申請人の職場の秩序が著しく混乱したという事実はなかったこと、懲戒免職処分の選択に当って特別に慎重な配慮を要すること等を勘案しても、なお、被申請人が申請人の前記行為について免職処分を選択した判断が合理性を欠き違法なものであったとはいい難く、結局、本件懲戒免職処分は、正当なものであるというべきである。

よって、申請人の本件仮処分申請は、被保全権利の疎明がなく、また、事案の性質上保証をもって疎明に代えるのも相当でないから、これを失当として却下することとし、民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり決定する。

(裁判官 松本朝光)

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